
治そうとしない
若い頃、患者さんを目の前にして、「治さなければ・・」と緊張し 責任の重さに苦しんでいた。近頃は、治そうとはしないし、そんなことできないことが分かっている。患者さんと対峙してその人との出会いの中、交琉の中で自ずから、その人の中に在った力が目覚めてくるのを体験する。勿論 治療者の側にそれだけの感受性や境地が開かれないと、患者さんの側に大きな変化は起こり難い。でも実際、これまで長い間、不登校や対人恐怖に苦しんできた青年の中に、力強い時代を切り開いてゆくような ビジョンが眠っていたりするのを目のあたりにし、その内なる力が輝き始めるのを見ると 無上の喜びを感じる。「関わり続けてよかった。彼の中にこんなにも素敵な 力強いビジョンが開花する時を待っていたなんて・・すごいなあ。人間て変わっていくんだなあ」と心が躍るような、自分も彼の熱い志に刺激されるような気持ちになる。
その人の中に眠っている本当の力を目の前に見ると 人間の内に宿る力の大きさに感動する。本当は、人は誰もその様に自分すら自覚できていない 眩しい(まぶしい)程の力を持っているように感じる。この確信は日々の診療の中から生まれてきたものである。人が日頃自覚し使っているエネルギーは、本来 その人が持っているエネルギーの 極く一部でしかないのかも知れない。その内なる可能性、内なるエネルギーを取りだす良き縁となること、その為に精神科医になったような気がしている。人が大きく変化成長してゆく姿を見るのは、とても感動するし、嬉しい体験である。