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    聞くことから


     彼女の言葉を聞きながら椅子に腰かけている。集中できることもあれば、気が散って殆ど聞き流してしまうこともある。彼女の運命に 関心を深く持つことが出来れば、聞く時の集中度が全く違ってくる。耳に入ってくる言葉としての音や意味のみでなく、彼女がこれまで生きてきた人生の全てを 一つの言葉の中に投げ入れていることを感じられることもある。それだけ集中できるということは、それだけ彼女の運命に関心を持てなければ、不可能なことである。彼女の人生にどれ程の関心と責任を持てるのか、精神科医は結局は、どれだけ深い関心と 持続する気持ちを持ち続けられるかであるような気さえする。

     彼女の内面の変化が 画期的に進むこともあれば、停滞し、寧ろ後退しているようにすら思える日もある。しかし、常に深い洞察や気づきが その面接で訪れる訳ではない。虚しい程の無力感に襲われつつ その面接を終えなければならないことも多い それでも彼女の心の言葉に 耳を傾け続けることでしか道は開かれない。彼女に深い気づきや癒しが訪れれば、彼女は治療者としての僕を理想化するかも知れない。でも 長い何の内的変化も見られない面接が続くと、今度は彼女は治療者としての僕を脱価値化するだろう。

     精神科医は 彼女の理想化と脱価値化の間を生き残らなければならない。彼女の治療者に向ける感情に 一喜一憂することなく 彼女の内的な理解に向かい続けなければならない。自分に向けられる評価の有無を超えて ただ真実に向かい続けること・・・確かな変化や内的な深化が彼女の中に見出される時、治療者としての喜びに満たされる。

     でも評価されることが精神科医の目標ではない。どのように彼女に見られようと、共に彼女が進むべき内面の道を探し続けること・・それ以外にない。自分が選んだ道であり、与えられた出会いである以上、自分が納得すればそれでいい。
    プロフィール
    福岡市中央区天神 心療内科 精神科
    心のクリニック新しい風
    http://atarashiikaze.com

    精神科医ギル

    Author:精神科医ギル
    こんにちわ 私は 一人の精神科医です 同時に一人の患者です
    心に浮かぶままに ブログを書いていきます よろしくお願いします

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