
何を求めているのだろう?
僕は何を探してこの人生を生きているんだろう。
夜9時を回った診察室で、風邪を引いて時々咳込む。誰もいない一人だけの空間で、僕は何を探しているんだろう。風邪の具合は、診療中よりもかなり楽になった。小さい頃、僕は海抜400メートルの 山間の村で生きていた。末っ子の長男ということもあり、祖母や祖父にとても大切にされた。約30軒程の集落だったが、村の中心に 尼さんがすんでいる浄土真宗の寺が1軒あった。その頃は村に特に娯楽がある訳でもなく、村の人は、みんなその寺に集まって 京都から来る客僧の話を聞いていた。
小さな僕は、おばあちゃんに手を引かれて いつもその御寺に参っていた。客僧の話の内容までは覚えていないが、親鸞聖人の命を狙う侍が、聖人の高貴な志に触れて 親鸞聖人に帰依する話は何となく覚えている。聖人に関わる記念の日には、小さな紅白の餅が前壇から投げられ、その寺に集まった村の人々は こぞってその紅白の餅を拾おうとした。その小さな餅を手にすると その当時はまるで宝物でも手にしたような気がして 嬉しかったことを覚えている。
今はその尼さんもこの世を去って 寺も跡形もなく壊されてしまった。何十年も前の遠い昔の思い出を どんな想いで今思い出しているのだろう?確かにそこには多くの村人がいて生活していたし、小さな僕に優しい表情で語りかけてくれた。あの優しい人達は何所へ行ったんだろう。