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    認知症の特集番組について

     先日 NHKで認知症の患者さんの精神科病棟への入院についての報道があっていた そこに登場した医師によれば入院している認知症患者の約8割の人は 実際には入院の必要が無い人だと言う

     この登場していた医師は 認知症病棟の現実を知っているのだろうか?と疑った 先ず認知症の患者さんの殆どが 家族が在宅で看れなくて 或いは施設で問題行動がひどすぎて 看ることができなくて 精神科に紹介されてくる人達である

     その医師が言うように家族が仕事を辞めて24時間その御老人の面倒を看れるのなら 彼の主張は正しいかも知れない しかし認知症の周辺症状を持つお年寄りを在宅で看ることの困難さを この医師はどれ位認識してあの番組での発言をしているのだろう?

     身体拘束についても 実際に認知症病棟に勤務したことのある人なら容易に分かることだが 足腰の弱いお年寄りを例えば夜間自由に歩かせていたら ふらつきがひどい為に転倒して頭部を打撲するか 大腿骨の頚部骨折を容易に起こし それこそその後ベッドに縛られた生活をすることになる

     確かに拘束しないことを病院の売りにしている病院もあるが 60人の病棟に夜間2人か多くて3人のスタッフしか置けない(何故なら人件費をそれ以上は出せないから・・・)その少ないスタッフで60人のお年寄りのおむつを替えたり 食事介助や薬を飲ませたりしなければならない 夜間奇声を発したり 他患者に暴力を振るう患者を制止しながら 仕事を進めなければならない 夜間の意識障害があるお年寄りや歩行能力が極端に低下したお年寄りをそのままにしていたら 病棟はたちまち骨折した人だらけになってしまう

     出来るなら身体拘束はしたくないし 不必要な薬を服用させたくはない しかし現実の認知症病棟では 十分な数のスタッフを揃えることは 医療経済的に不可能だし 骨折などの危険を避けるためにはやむを得ない身体拘束もある 勿論 やむを得ない理由を精神保健指定医がカルテに記載する義務があり 不必要な拘束はなるべく避けている 

    先日のNHKの報道や登場した医師の発言が 僕には現実を無視した理想論としか思えなかった 24時間オンコール体制で一体どれ位の医師や医療機関が対応できると思っているのか 僕はその医師がどれ位の睡眠を取っているのか訊きたい 認知症の患者は精神科に2か月以上は入院させないと言っているが どのようにしてその認知症のお年寄りの世話をする積りなのか 理想論では現実の厳しさは越えられない

     短期間で高齢者をたらいまわしにすれば お年寄りの認知機能はもっと低下するし 場所や時間について御年寄の意識に大きな混乱を生じる 頻繁な住環境の変化は最も好ましくない結果をもたらす

     NHKは政府による情報操作を意識的にやっているとしか思えない 番組に登場する医師の現実認識に関しても長い間 認知症の病棟に勤務してきた者として疑問を禁じ得ない
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    プロフィール
    福岡市中央区天神 心療内科 精神科
    心のクリニック新しい風
    http://atarashiikaze.com

    精神科医ギル

    Author:精神科医ギル
    こんにちわ 私は 一人の精神科医です 同時に一人の患者です
    心に浮かぶままに ブログを書いていきます よろしくお願いします

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